愛しい遺書
言いながらポケットに手を入れると、2・3日前に買ったチューインガムに指先が当たった。一枚マナカに渡し、一枚を口に入れた。

包み紙をポケットに戻そうとして、入れ損ねた。それは潮風に乗って勢いよく飛ばされた。

「キキ、なにしてんの?」

元々煙草の灰は飛ばせても、吸殻は持ち帰るし、ゴミをポイ捨てできないあたしは、飛ばされた包み紙を追いかけていた。

「マジウケるんだけど!諦めなよ!」

あたしの姿を見てマナカは爆笑している。

「でもほっとけないしー!」

そう叫びながらあたしは包み紙を追い駆けた。マナカは手を叩きながらまだ笑ってる。

暫くの追い駆けっこの後、潮風は観念したのか包み紙を飛ばすスピードを緩めた。あたしはすかさず足で踏みつけ、それを取った。立ち上がりポケットに入れると乱れた髪をかきあげた。いつの間にか階段まで来ていた。

ふと下を見ると、男女が二人で上がって来た。薄明かりで顔ははっきり判らなかったが、その姿形ですぐに判ったのと同時に、あたしの鼓動が早くなった。


明生だ。


女と一緒にいるのは珍しい事ではない。そしてその女がいつも違うという事も。それでも見るたびにドキドキしてしまうのは、どういう状況であれ脳が明生を確認すると、愛欲をドクドクと放出して悦び、震え出すのだ。

明生と目が合ったような気がしたが、そこは暗黙の了解であたしは気付かないフリをしてマナカの所へ戻った。

「どしたの?」

マナカはあたしの異変に気付いていた。

「……明生が来た」

「マジで!?」

そう言うと辺りを見渡すようなフリをして明生を見た。

「チッ!」

マナカが舌打ちをした。

「また女かよ……。あれ何番目?」

マナカは明生を毛嫌いしている。実際嫌われても仕方ない。女たらしな上に、報われることのない女たちを手の上でゴロゴロと転がしている。そんな自分勝手な明生が気に食わないのだ。

「あたしにはわかんないよ。何番目なのか、何百番目なのか……」

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