愛しい遺書
途中、あたしたちの歩くスピードに合わせてゆっくりと黒のワンボックスが近付いて来た。

「いえーい!ワッツアップ!」

こてこてのドギードッグをガンガン鳴らし、身を乗り出してるのはこてこてのBーBOYたち。マナカはまんざらでもなさそうだが、知らんぷりでスピードを緩めないあたしに、もどかしそうにしながらBーBOYたちに愛想笑いをし、あたしの跡を追って小走りでついてきた。

「今のヤツら結構良かった!!」

マナカは少し悔しそうだ。

「戻ろうか?」

煙草の灰を空中にトントンととばしながらあたしは言った。

「う〜ん…いい!戻った時にまた声かけてくれたらその時は運命だと思って仲良くなる!」

「もし声かけてくれなかったら?」

そう言うとマナカは立ち止まったが、

「それはそれで運命でしょ!」

笑いながらそう言い、少しだけ勢いをつけて階段をまた登り始めた。


たった一段で2・3歩歩くような幅の広い階段がずっと続き、それを登り終えると見晴らしの良い展望台がある。
晴れた日の日中は家族連れで賑わう。真っ青な海がどこまでも広がり、波も穏やかで、潮風に吹かれながらそこから広がる景色を見てると、自分の中の醜いモノが死んで行くのがわかる。少しだけ自分を愛しく感じられる。
だけど夜は正反対だ。日中のキレイな景色は夜の闇に黒く潰され、物凄く高い波が大きなしぶきをあげて岩をどんどん飲み込んで行く。荒れた波は、あたしの欲望そのものだ。この波のように、明生を飲み込んでしまいたい。自分の一部にしてしまいたい。それが叶うなら、どれだけ幸せなことだろう………。

心の中の愛しい自分は、いつもどす黒い欲望に勝てない。

だからあたしは夜の海を好むのかもしれない。



「キキってさあ、夜の海好きだよねぇ」

強く吹く潮風で激しく乱れる髪を押さえながらマナカが言った。

周りにもそう見られてると思うとなんだかおかしかった。

「この波はあたしそのものだから」

ボソッと言ってみたが、岩に打ち付ける波の音でマナカには聞こえないようだった。

「なんか言ったぁ?」

「ううん…何も」

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