愛しい遺書
「今度マナカにやってもらいなよ」

あたしは冗談で言うと、

「うん!」

と言って梗平は大きく頷いた。

「やらねぇし!!」

マナカはわざとキレて言った。あたしと翔士は2人のやり取りを爆笑しながら聞いていた。

「どうする?あたしもう外に出られるけど……」

するとマナカは梗平の腕を掴んで

「あたしらはまだいるよ!せっかくのデートなんだから、ここからは別行動にしよ!」

と気を利かせるように言った。

「……どうする?」

あたしは翔士を見上げた。

「じゃあ……外出るか?」

そう言って翔士はテーブルの上に上げていた煙草をシャツの胸ポケットにしまった。あたしは素直に従う事にし、マナカたちにバイバイすると店のドアに向かった。

受付にはたろーが1人、金庫番をしながらほろ酔い状態で曲にノッていた。

「たろー、あたし帰るね」

「上がりっすか?お疲れ様した!」

たろーはあたしにペコリと頭を下げると、隣にいた翔士にもペコリとした。翔士もつられて返した。

「よい夜を!」

両手を高く上げてブンブン振るたろーに見送られながら、あたしたちは店を出た。

店の入り口にある階段を翔士は先に何歩か降り、振り向くとあたしに手を差し伸べた。あたしはその手を掴むと、ゆっくりと階段を降りた。

店の外は階段や、その下にも夜風を浴びている客で賑わいでいた。あたしはよろけないように足元だけを見ていた。

「ばいば〜い」

階段の中間で声を掛けられて顔を上げると、明生と連れの女が階段の手すりに寄りかかっていた。あたしは動揺して、またしても翔士の手を離してしまった。

明生は吸っていた煙草を下に落とし、スニーカーの爪先で揉み消すと、顔色一つ変えずに

「おやすみー」

と言った。ろれつが回っていない。悪酔いしてるとすぐわかった。

「……大丈夫?」

翔士がこっちを見てる。わかっていても、声を掛けずにいられなかった。すると明生は無言のまま「行け」と言うように手を払う仕草をした。

「キキ、行こ」

翔士はあたしの手を強く掴んだ。

「……おやすみ」

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