愛しい遺書
時計を見ると、午前1時半。

「わかりました。じゃあ2時までここ手伝います」

「そう?じゃあ頼むよ」

久世さんはそう言うと井藤さんの酒をあたしから受け取り、井藤さんたちの所へ行った。

2時まであと30分程。あたしは山積みなった空のグラスを洗えるだけ洗う事にした。

「キキさん、チップ剥げちゃいますよ?あたしやりますから……」

ヒトミちゃんが寄って来た。

「大丈夫だよ。あたし2時で上がるから、洗い物してた方が抜けやすいし」

そう言うとヒトミちゃんは「じゃあ、あたしも手伝います」と言ってスタッフルームに行き、エプロンを持って来た。

「これ、どーしたの?」

メイドカフェかよ?と突っ込みたくなる程の、フリルのついたエプロン。

「前にバイトしてたとこのエプロンです。あまりに可愛いからパクってきちゃいましたぁ。可愛くないっすか?」

本気で気に入ってる本人を前に、あたしは何も言えず大人しく付けた。酒をオーダーしに来る客たちに「新手のメイドだ!」と冷やかされながらも、あたしは愛想よく笑い、黙々とグラスを洗い続けた。





「キキちゃん、2時だよ」

久世さんが時計を指して言った。あたしは頷き、最後のグラスを濯ぐとヒトミちゃんに後の作業を頼み、皆に挨拶してスタッフルームに引っ込んだ。ジャケットを取り、ロッカーの鏡でメイクをチェックすると外に出て、マナカたちがいる場所へ行った。

「今日はもう上がっていいって」

あたしはそう言って煙草に火を付けた。

「おかえり〜!つうか、キャラ変わってんだけど!」

外し忘れていたエプロンを指差して、マナカが爆笑した。あたしは慌てて外そうとすると、

「ちょっと待て!もう少しこのままでいて!」

と梗平が両手を合わせて言った。マナカがドン引きしたような顔で梗平を睨むと、梗平は

「翔士もそうだよな?」

と言って、翔士に同意を求めた。

「オレ、メイド趣味じゃねぇし」

翔士がわざと冷たく言うと梗平はマジ凹みした。あたしは笑いながらエプロンを外した。

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