恋スル運命
マリアさんの視線がイヤで俯いただけだったけど、疲れているのは本当だし、少し休ませてもらおう。



お手洗いに行ってから休みたい。


レストルーム内にはトイレがないから、いったん部屋を出る。



歩く私の耳にクスクスと笑う女性の声が聞こえてきた。



聞き覚えのある声に無意識に立ち止まる。



同じ扉がいくつも等間隔で並ぶ中、一つの扉が少しだけ開いていて、そこから聞こえてきたんだとわかった。




その扉の前を通り過ぎないと、トイレへは行けない。




顔を伏せ、早足で通り過ぎようとした時。



「ジョージ、キスして」



甘えるような声で夫の名を呼ぶ言葉が聞こえてきて、思わず声のする方へ顔を向けてしまった。
ドアの隙間から見える位置に、赤いドレスを着たマリアさんがジョージさんの首に両手を回し、体を密着している姿が見えた。



「マリア、僕は結婚したんだ。だから困らせないでくれないか?」



「困らせるなんて、失礼ね。私は別に今まで通り、たまに会って抱き合いたいだけよ?それ以上は望んでいないわ」



「ソレが困るって言っているんだよ。君にはほかにも僕のような男がいるんだろう?」



困ると言っておきながら、マリアさんを引き離そうとしないジョージさん。
よく見ると、彼の手はマリアさんの腰に回っている状態だ。
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