ハッピー☆ハネムーン

ロブスターには食べ方があって、それを1組に1人のクルーがついて手取り足取り教えてくれた。

まずは、専用のはさみを使って頭をとりましょう。


…これが結構、曲者で…か…固いッ!!!


はさみを危なっかしく扱うあたしに、慶介は「貸して」と言って、意図も簡単に赤い殻の中からプリプリの白い身を取り出した。


「…ありがとう。 なんでもできるんだね」


「食った事あるから」



そう言って、慶介は涼しい顔でフォークを口に運んだ。

…こうゆう事でも、慶介には敵わない。




お腹も一杯になり、あたし達は最上階のデッキに出た。

すっかり陽も沈み、代わりに大きなお月様が浮かんでいた。
風も穏やかで、静かな海はまるで鏡のよう。



「気持ちいい」



いくら南国の島、ハワイと言っても夜の海風は少し肌寒い。
潮風が髪を揺らし、ワンピースの裾がふわりと広がる。


捲れてしまわないように、あたしはスカートを手で押さえて木目調の手すりから少しだけ下を覗き込んだ。



そこには漆黒の海が広がっている。

それに、少し背筋がゾクッとしてあたしは慌てて体を起こした。


夜の海って怖いな……



「寒くないか?」



黒い海を見つめていると、不意に背後で声がして、思わず体がビクリと跳ねた。

気が付くと、あたしを包み込むように慶介が立っていた。


手すりを掴んでいたあたしの手。
そのすぐ傍に置かれた慶介の大きな手に、ドキリと胸が反応してしまう。

「平気」そう言って、グッと手に力を込める。
寒くなんかない。だって、慶介が風除けしてくれてるじゃない。




「…海って吸い込まれそうになるね」



あたしは冷静を装って、そんな事を口にした。
ほんとは、この雰囲気に負けそうになってる。


背中には、熱いくらい慶介の温もりを感じて。



< 51 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop