ハッピー☆ハネムーン
ヒールの高い靴を履いて、足早にこちらに向かって来る昌さん。
強く言った口調とは裏腹に、その表情を見てあたしは息を呑んだ。
月島さんは急に顔を上げると、まるで泣いているかのようにその唇を噛締めている。
胸がドキンと音をたてた。
――それは。
月島さんなのに……月島さんじゃなくて。
慶介と重なってしまったから。
あたしも慶介も……アツシ君でさえ、月島さんのその切ない表情から視線が逸らせない。
“どうしてそんな顔をするなら、別れたりなんかするの?”
誰しも、声にださなくったって。
きっとそう思っていたに違いない。
「あー! パパぁ」
見覚えのある小さな後姿があたし達の間をぬって現れた。
「……」
慶介の元を離れ、あたしの横を通り過ぎ……
昌さんの目の前へまだおぼつかない足取りで駆けていく。
それは、今度こそ本当のお父さんの元へ向かっているんだろう。
月島さんはその存在に気づくと、目を見開いて声を上げた。
「――アキラッ!!?」
「……え?」
一度も後ろを振り返ろうとはしなかった昌さんが、月島さんのその言葉に誘われるように振り返った。
「……アキラ…ママはどうした?1人でここまで来たのか?」
ベンチからゆっくり立ち上がると、愛おしそうにその子を抱きかかえた月島さん。
彼の表情は、今まさに父親の顔になっている。
彼の首に必死にしがみつくその小さな姿。
……心細かったんだな。
頬が自然と緩んでしまう。
でも、気づいてしまったんだ。
昌さんの肩が震えてるのに……。
「ど……うして……」