ハッピー☆ハネムーン

慶介は少し目を見開いてみたものの、すぐにその表情はいつもの慶介に戻っていた。


そして、彼はあたしの目をじっと見つめてから小さく息を吸い込んだ。






「――そうだな。 きっと、近いうちに会えるよ。 絶対」



そう言って口元を緩めると、慶介は長椅子の背もたれから体を離した。




その瞬間……



……え?



唇に柔らかな感触。
一瞬の事で、何がどうなったのか理解できない。
これは、キス……と呼べるのだろうか?

あっとゆう間に離れてしまった唇。
あたしは、がばっと両手を口元に持っていく。

そして、今度は左の耳元にくすぐったいような低い声。



「俺、もう、我慢しないから」



……が、ががが我慢!?



たくさんの人が行き交うなか。

小さな手帳があたし達の重なった唇を目隠ししてくれた。
でも、きっとそれはなんの意味も持たない。


あたしの顔は、一気に赤く色を染める。



あわあわと口を開けたり閉じたりしているあたしを見て、慶介はまた可笑しそうに肩を揺らした。


顔をくしゃっとさせて笑うその笑顔に、あたしの時も止まる。



「……な…な、な」



未だ言葉は喉を通らず、「なにしてるのぉ!!?」と言いたくてもうまく出てきてくれない。
そんなあたしを見て、慶介はまた笑う。


椅子の背もたれに身を預けながら、目を細めてあたしを眺める慶介は人差指をそっと唇に当てた。



「――驚きすぎ」



その口元から離れた人差指は、あたしのおでこを弾く。




そして。

真っ赤になって焦るあたしとは対照的に、余裕たっぷりに笑う慶介。



もう……

慶介の魔法にかかってしまった。
まんまと罠にはまってしまったんだ。




その時、タイミングよく空港内にアナウンスが入った。



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