氷の女王に愛の手を

「あります! めちゃくちゃあります!」


あのコーチのことだから勝手に選曲しかねない。それは困る。大いに困る。


噛みつくように回答したせいか、コーチは一瞬うろたえた。


「ショートはまだ考えてませんが、フリーはスペイン奇想曲がいいです」


「スペイン奇想曲?」


「はい。フリーは絶対スペイン奇想曲で」


リムスキー=コルサコフ作曲。スペイン奇想曲。


様々な楽器がソロで活躍する部分が多く、スペインの伝統的な旋律とリズムを用い、情熱的で華やかさが溢れる曲。


「スペイン奇想曲って、あのどんちゃん騒ぎな、いかにもスペインって感じのやつだろ。正直言ってお前に合わないと思うが?」


「合わないなら新天地を開拓しないと。いつまでも似たようなプログラムでは飽きられちゃいますから」


「だがな……」


コーチの言うことはもっともだ。
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