月影
「レナちゃんまで店に来てくれないとなると、俺も拓真も寂しいな。」


辛くも、ホストらしい顔をした台詞。


葵と別れてまで、聖夜クンが選んだものだ。


ずっと横で口を挟まずに居た拓真は、やっぱり苦笑いを浮かべていた。



「頑張ってね、仕事。
葵もさ、きっと頑張っちゃう子だから。」


別々の道だけど、と付け加えると、聖夜クンは言葉を飲み込むような顔をした。


そうまでしてお互いが選んだのなら、あたしみたいに半端なことなんてしてほしくはなかったのだ。


後悔したら、別れは意味を持たなくなる。



「レナ、送るよ。」


短くなった煙草を捨てた拓真は、そうあたしに言葉を掛けた。


だけども首を横に振り、彼へと顔を向ける。



「良い、ひとりでタクって帰る。」


「俺もタク呼ぶから。
ついでだし、やっぱ送らせて?」


不安げな拓真の顔に再度首を横に振り、あたしは聖夜クンを一瞥した。


そして視線を再び拓真へと戻し、少し迷ったが口を開く。



「うちで今、葵寝てんの。
なのに拓真に送ってもらうことは出来ない。」


「…そっか。」


「アンタはさぁ、聖夜クンの愚痴でも聞いてあげなよ。」


「…わかった。
また連絡するから。」


友達の彼氏の友達ってのは、本当に微妙な立場なのかもしれない。


何となく拓真とも気まずくて、じゃあね、の言葉を残し、あたしは彼らに背中を向けた。


気付けばもう、世界は朝焼けの色に染まっている。


< 126 / 403 >

この作品をシェア

pagetop