月影
「俺、もしかしてレナとサキちゃんの間を険悪にしちゃった?」


彼女が帰り、やっと落ち着いたテーブルで拓真が問うてくる。


首を横に振ると、彼はほっと安堵の表情になった。



「サキちゃんはそんなこと気にする子じゃないよ。」


「なら良かった。」


笑いながら、でもさ、と彼は言う。



「あの子が言ってた通り、俺も店替えのこと真面目に考えようかなぁ、って思うんだ。」


「…え?」


正直、予想外だった。


だけども拓真はん~、と宙を仰ぎ、「トオルさんのこと、前にも増して嫌いになった。」と言う。



「俺もサキちゃんと同じで、嫌いな人と同じ店では働きたくないんだよね。
レナのこともアイズも否定はしないけど、気持ちはわかるよ。」


「…拓、真…」


「まぁ、どこ行ってもムカつくヤツなんてひとりは居るんだろうけどね。」


ひとりで喋るように、彼はそう言ってアルコールを流し、話を終わらせた。


サキちゃんは単にお金を稼ぐため、拓真は上を目指すためで、理由は違えどふたり、この世界で生きる理由があった。


なのに、あたしはどうだと言うのだろう。



「ねぇ。
あたしがもし風俗行ったら、拓真どう思う?」


何となくそう聞いてみれば、彼は「本気?」と目を丸くした。


そしてグラスを置き、真剣な瞳をあたしに投げる。



「行くなよ、絶対。」


初めて聞いた、拓真の上からの言葉。


どこかジルを思わせ、その瞬間にあたしは、目を逸らす。

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