月影
拓真は、体を使って金を稼ぐことを否定する気はないのだと言った。


けれど、理由がないならあたしにそんなことをしてほしくはない、とも。


醜い中に居て、これ以上汚れることに対する罪悪感は薄かった。


だから、わかった、とだけ言い、あたしは席を立ったのだ。


男の顔した拓真とは、一緒に居られなかった。


逃げたのだ。


あたしはまた、彼の瞳から。






「シュウのところに行きたいよ。」


気付けばジルに、そんな電話を掛けていた。


困らせたいわけでも仕事の邪魔をしたいわけでもなかったのに、そんなことにも気が回らなくなっていたのだ。


迎えに来てくれたジルの胸で、ただ泣き続けた。

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