月影

触れた軌跡

もうすぐ冬が来る。


ジルと出会って一年、色々なことがあったけど、でもどれも大切な思い出だ。




退院した彼は、これからは俺も一般市民クンだからなぁ、とわけのわからないことを言いながら、色んな仕事をしながらフラフラしている。


時には車屋を手伝ったり、トラックに乗ってみたり。


そのほとんどが知り合いのところでのバイトのようなものらしいが、要領が良いのだろう、羨ましい限りだ。


あと、たまに公判中の嶋さんに面会にも行ってるようだけど。


来るなよ、と言われても、やはり彼はそういう義理を忘れる男ではないようだ。


ちなみにギンちゃんは、妹さんとどうなってんのかは知らないが、仲良くやっているらしい。


今はしがないパチプロや、と、こちらもわけもわからないことを言っていたが、どうやら結構連勝記録を伸ばしているらしく、この前奢ってもらったり。


まぁ、何だかんだでふたり、今も仲良くやっているらしい。


で、あたしはといえば、たまにコンパニオンのバイトをしながら食いつないでいる。


けど、これがなかなか良くて、2,3時間1セットで、お給料も良くて、おまけにお酌ついでにお酒も飲めたり。


それを一日2セットしたりするだけで、当面の生活費は稼げるのだ。


まぁ、キャバの延長のようなものだけれど、今はそうやってジルと一緒に、ゆっくり自分のやりたいことを探している。






「…それってマジ?」


昼下がりのカフェで向かい合う彼女は、全てを話したあたしに驚くように目を白黒させていた。


何だか笑ってしまうほど間抜けな顔で、あたしは思わず口元を緩めてしまう。

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