月影
彼女、葵から連絡が来たのは昨日のことだ。


ちょうど良いタイミングだったので、じゃあ会おうよということになり、今に至るわけだが。


葵の本名は“サエコ”というが、まぁ、呼び方は置いといて。



「ジルさんってそんな人だったんだぁ。
でも、そりゃレナも内緒にしてるはずだよねぇ。」


と、彼女はひとりでうんうんと納得しているようだった。


あの頃はお互いに必死で、自分さえも見失っていたけれど、でも今は、出会った頃に戻ったよう。



「葵は?」


「仕事はねぇ、受付嬢だよ!」


「マジ?
何か格好良い。」


「でしょ?
まぁ、響きは良いんだけど、これがまた制服がダサくて嫌になっちゃうの。
けどまぁ、残業ないし、受付で案内するだけだし?」


「へぇ、頑張ってんじゃん。」


「まぁね。」


あたしにも時間が流れているように、葵にもまた、時間は流れているということだ。


すっかりキャバっぽさは抜け、見た目だけは落ち着いたように思う。


まぁ、やたら早口なのは彼女らしいところだが。



「てか、そんなことは良くてさぁ。」


そう言いながら、彼女は少し困ったように頬を掻いた。


何だか照れているみたいに見えて、その時初めて左手の薬指に光るものを見た。



「あたしさ、コウとヨリ戻ったんだよね。」

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