しょうがい
必要なのはメジャーのみ。僕は自分の足元にそれを置き、茶の間にて家族の誰かが姿を現すのを待った。僕はソファーに座り、黙ってテレビを見ているふりをしている。

しばらくすると父がやってきた。ちなみに今日は日曜日であり、父は決してリストラされたわけではない。父の背は僕より幾分小さく、昔感じた父親特有の威厳たるものは、もはや感じとることはできなかった。

父は僕が座っているソファーは避け、下のじゅうたんに直接腰を下ろした。座る際には特に何も喋らず、僕の存在など全く気にしてはいなかった。そのおかげかどうかは分からないが、父は床に置いてあるメジャーには気付いていなかった。

父が僕の方を振り向かないうちに、僕はこっそりとそのメジャーの目盛を確認すべく、目線を下に移した。メジャーが示す値は美しさを醸し出し、人の心を思わずウキウキさせる、そんな数値であった。

「1メートル11センチ」

この時、僕と父とを隔てている距離は、奇跡の1メートル11センチ。けれども僕は、その値が持つ意味合いなんてどうでもよかった。確変だろうと関係ない。僕が知りたいのはそんなことではないのである。

それから僕は父が去るのを未届け、続けてこちらへやってくるであろう、ある人物を待っていた。
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