魔王に忠義を
ふてぶてしい表情を浮かべたまま、連行される。

その最中。

「……」

俺はアイシャとすれ違う。

俺に言葉はない。

短い付き合いだったが、なかなかに楽しいひと時を過ごさせてもらった。

一度くらいは華麗な舞いをゆっくりと堪能させてもらいたかった気もするが…。

もう会う事もないだろう。

別れの言葉も告げずに通り過ぎようとする。

と。

「待ってるわ」

一言。

アイシャは一言だけ、俺に聞こえるように言った。

「………!」

その言葉に思わず立ち止まる。

…振り向くとアイシャは、またあの屈託のない笑みを浮かべていた。

「その時はお酒くらい奢ってよね?」

「…………」

俺は、心からの笑みで返した。


< 105 / 107 >

この作品をシェア

pagetop