魔王に忠義を
顔見知りなのだろうか。

そんな事を考えていると。

「ほぅ」

ネルスが下卑た笑いを浮かべた。

「どこかで見た顔だと思ったら、女…お前いつぞやのフーガの踊り子じゃないか」

「……」

アイシャは何も言わず、ただ黙ってネルスを睨んだ。

その視線さえもネルスは意に介さない。

「あの後も度々ハインベルト家の晩餐会にフーガの踊り子を呼んでみたが…」

その口元が愉悦に歪む。

「お前が一番具合がよかったぞ?」

「っ…お前っ!」

激情に駆られ、風の魔法を行使しようとするアイシャ。

しかしその動きを、ネルスは鞭の一閃で制する!

たった一振り。

鞭の一振りだけで大地に炎が走り、俺とアイシャはその高熱に怯む。

「俺の鞭は火力も伸縮も自在…お前もその身で味わっただろう?」

反吐の出るようなネルスの笑みは消えない。

「その艶やかな肌を火傷が残らない程度に嬲ってやったら、いい声で鳴いていたじゃないか…お前も満更じゃなかったんだろう?」

「っ…っっ…!」

気丈で、快活で、前向きで。

そんなアイシャでさえ、ネルスの侮辱の言葉に涙を流す。

その瞬間。


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