パンデミック
「……スゥ…」

城島は深く息を吸い込んだ。


「清水さん、がんばって奥さんに会いましょうね。」

城島の隣で兄貴は別の患者を診ていた。

「…ハァ…、諦めろ。母親と子どもと…。こんなクソ忙しいのに出産なんて診てられるか!!」

城島は息を吐き込むと冷たい言葉を放った。

「オイ城島!!何言ってんだ!!」

城島の言葉に兄貴は叫んだ。

『…………』

また病室は静まり返った。

「井上、わかるか!?
今病室は呼吸器も足らず、医者の数も足りない!!」

「………」

「そんな時に出産なんか迎えてみろ!
生まれた子どもも院内感染ですぐに逝っちまう!!
母体もこの環境じゃ生きていけるかもわからん!!
そん中で出産する方が他の患者を殺すことになんねんぞ!!」


(スッ…)

「手術室に入りましょう…。」

兄貴は妊婦のベッドを押し始めた。

「オイ井上!!」

「城島…お前は2つ間違ってる…。
まず1つは生まれたての子どもは放置すればすぐに死ぬが、案外病気にはかからないもんだ。
そしてもう1つは…」


「……?」


「…どんな状況でも“医者が諦めたらもう終わりや”。
これを教えてくれたんわ……、…城島、お前やぞ?」

(ガコン…)

兄貴は手術室へとベッドを向かわせた。


(…スッ…)

「ごめんな…坊主…」

城島は亡くなった男の子に手を添えてから作業に移った。

「これから患者は絶対助ける気で助けるんや!!」

城島の目の色が変わった。

(…本間今日は最悪なクリスマスや…)
< 29 / 38 >

この作品をシェア

pagetop