【いつきの小説講座】巻ノ弐

◆1人称の場合

 淹れたての珈琲の熱さに気をつけながら、カップへ口を近づける。

 湖面を漂う湯気と共に滑り込ませたそれは思いのほか熱くって、

「あひゅい……」

 じん、と痛む舌先。

 カップをテーブルに置いて、代わりに化粧ポーチから手鏡を出して見てみると、

「あ~あ……」

 やけどとまではいかないにしろ、赤くなっていた。

 ふっ、と吹きかけて冷ます息はため息で。

 砂糖をいくら溶かしても、きっと冷めるたびにほろ苦さだけが増していくのだろう。

 そんな悪循環をどうにかしたくって、わたしは窓の外に視線を向けた。

 そこには、青い空。

 窮屈そうな、窓枠内に押し込められた、空。

「……うん」

 まだ熱いままの珈琲はテーブルの上にひとまず置き去りにして。

 わたしは、少し明るい色のピーコートを手にして外に出た。




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