紫陽花の咲く丘で
初めて会ったのはいつの事だったのだろう。

記憶にすら残らない程昔、物心の付く前のこと。

赤ん坊だった私を家族の次に抱いたのが、彼だった。

私は抱いている彼の指を、ギュッと握って離さなかったらしい。

彼は困惑しながらも、私を恐々抱いていた。

―それが私たちの出会い。





ピピピピピー!

「眸、起きないと学校に遅刻するわよー?」

目覚し時計の機械的な電子音と共に、階下から母親の声が聞こえる。
耳障りな電子音を止め、息を吐く。
学校に行くのが嫌だった。登校拒否とまではいかないが、会いたくない人がいる。

「……そんなこと言っていられないっか、・・・受験生だし!」

よっ、と掛け声をかけながら身体を起こし、制服を着て鞄を持って、下に降りていく。

「朝ご飯食べないの?」

母親の声を背中に靴を履く。

「いらない。行ってきます」

ドアを開け外にでる。太陽の日差しに目を瞑る。
庭の花が青空に向けて、一斉に顔を覗かせている。
――今日も暑くなりそうだった。

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