幸せの契約
そんな私には気付いてない様子で

矢倉くんは親しげに私たちの会話に混ざって

静香もいつの間にか楽しそうに馴染んでる


私は一人みんなの話を聞いてるだけ









つまんないなぁ



ふと
携帯のバイブが私を呼んだ

サブデイスプレイ画面には“犬居さん”


「ごめん。」


私は席を立って静かなところへ移動して携帯を開いた

「もしもし。」


『犬居です。お忙しいところ申し訳ありません。
本日のお帰りはいつも通りにお迎えに行ってもよろしいですか?』


いつも
お昼過ぎになると犬居さんから迎えの確認の電話が入る


私の予定を邪魔しないように気遣ってくれてるんだろうなぁ


私は
チラッと矢倉くんを見た

頬にキスされたことを思い出すと気持ち悪くなって
背中に悪寒が走った


好きな人以外に
キスされたりしても気持ち悪いだけ


ましてや
酔った勢いであんなことするなんて…


あの夜の事情を思い出すと
(今まではその後の犬居さんの言動に頭は支配されていて、すっかり忘れていたの)


だんだん苛立つ


『…鈴さま?』


犬居さんの声に私はハッとする


矢倉くんたちが居る所には戻りたくないし

なんだかイライラしてこのまま講義も受けたくない


「迎えはいいです。
今から歩いて帰りますから。」


歩いて帰ったことはないけど


いまからなら夕食の時間には間に合うだろう


なんて考えていた


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