幸せの契約
そこは一面、色とりどりの花で飾られていた


甘い香りが鼻をすり抜ける

目の前には
白いクロスのかかった大きな丸テーブル


中央にはバラとカスミソウが可愛らしくグラスに遊んでいる


テーブルを挟んで向かい合うように置かれた2つの椅子


奥の椅子に座っていた男の人がゆっくり立ち上がった


グレーの光沢があるお洒落なスーツに身を包んで私の前に歩み寄る


彼は正しくあの日私が声をかけた男の人だった



気品溢れる顔立ち
清潔感のある整った髪型


「我が萩乃宮家当主、萩乃宮蔵之助様です。」



芳賀さんが紹介する


「初めまして。萩乃宮と申します。先日は危ないところを助けていただき、心より御礼申し上げます。」

ニッコリ笑って萩乃宮家当主は私に頭を下げた



「あ、頭をあげてください!!」

慌てて私は蔵之助さんに言う


だって
目の前にいるのは…

あの萩乃宮蔵之助!!


日本に古くから伝わる華族で皇族とも繋がりがある萩乃宮家


今はIT関連やベンチャー企業なと様々な事業展開により、その総資産額はある一国よりも多いとか………



そのトップに君臨する
萩乃宮家当主が私に頭を下げるなんてっっ!!


背筋が震えて冷や汗が出る


「今日は平瀬さんに心よりのお礼を用意させてもらいました。気に入ってくれると嬉しいのですが。」


蔵之助さんに促されて椅子に座る


蔵之助さんと向かい合うように座るなんて…緊張するよぉ



テーブルに並べてある食器…


どうしよう…

テーブルマナーなんてあんまり分からないよ



その時
銀食器が並んだ中に箸が一膳あることに気が付いた



不思議に思って蔵之助さんを見上げる



蔵之助さんは優しく微笑んだ


「私は堅苦しいテーブルマナーが嫌いでね。
家では食事はもっぱら箸なんだよ。」



もしかして…―
私に気を使ってくれた…?
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