求命
「大伍、いい加減ご飯食べちゃってよ。」
母親が叫んだ。二階にいる息子に対してだ。もう、一時を過ぎていると言うのに、大伍は起きてくる気配がない。毎日、こんな感じだ。隣にいる同級生の明は、毎日きちんと大学に通っている。母親はそれをうらやましく思っていた。
「・・・。」
何も言わず、階段を下りてきた。
「毎日、毎日。そんな事だと、いつまで経っても仕事なんて出来ないよ。」
「・・・。」
返事がないのはわかっている。それでも、母親は何か言わずにはいられない。大伍は所謂ニートだ。せっかく入った大学は、一ヶ月も経たずに辞めてしまった。それからは、毎日こんな生活が続いている。もう二年になるだろうか。いつしか母親の言葉に腹を立て、反論する事もなくなった。そして、ほとんど口をきくでもなく、淡々と口に食べ物を運んでいた。
「・・・。」
最後にさらに残っていた卵焼きを口に運ぶ。すると、何も言わずに立ち上がった。
「なんとか言いなさいよ。」
子供の頃は食べ終わると、大きな声で「ごちそうさま。」と言ってくれたものだ。それが今はどうだ。哀しくて、毎日泣いていた。
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