求命
「ゆ、夢・・・?」
ここは公園だ。しかし、目に映る景色はどこかのマンションだろうか。その玄関に女が倒れ死んでいるのだ。瞬きをしても、その景色は消えない。むしろ、その輪郭を増していく。
「誰・・・なんだ・・・?」
そう思った時、手にとても嫌な記憶がやって来た。何かを折る感覚。それ自体は普通の感覚となんら変わらない。しかし、それはなんとも言えない不快感で大伍の五感を刺激するのだ。あまりの不快感に掌を、ジーパンで擦った。それでも消えない。むしろ増しているようにすら感じた。
死体が大伍を見つめる。そして、言った。
「な、なんで殺したの?なんで殺したの?私が何かしたの?」
起きあがり、大伍の腕を掴む。ものすごい力だ。振り払おうとしても振り払えるようなものではない。それは成虫になろうとしている蝉のように、大伍に抱きつき昇ってくる。死体の顔が一センチ、一センチ近づいてくる。血の気を失った青い顔。紫色の唇。腐った魚のような瞳。それが近づいてくる。
「なんで殺したの?」
「こ、殺してない。」
「私、見てたよ。殺したのはあなた・・・。何もしてないのに・・・なんで殺したの?」
訴えの声は大きくなる。大伍の心臓の音も大きくなる。破裂する鼓動。
「う、うわあああああ。あああああ。あ、あああああ。」
< 41 / 69 >

この作品をシェア

pagetop