求命
女は写真を取り出した。男はまだ無線で話を続けている。
「この方をご存じですか?」
それは殺された女の写真だ。もちろん死体の写真などではないが、その事を母親はニュースで見ていた。だから、近所で起きた事件である事も、もちろん知っている。そんな時に警察が訪ねてきて、殺された女の写真を見せる。母親の驚きは尋常ではない。
「こ、これは・・・。」
「ご存じなんですね?」
「はい、テレビのニュースで見ました。確か・・・近所のマンションで殺されたとか・・・。」
そこまで知っているなら、概要を話す必要はなさそうだ。女はいきなり本題に入った。
「単刀直入にお聞きします。息子さんが昼間、何をされているかご存じですか?」
「大伍がですか・・・?」
母親はしばし考え込んだ。働き始めたという話は聞いたが、具体的にどんな仕事をしているとかは聞いていない。ただ、かなりいい稼ぎらしいというのは、話でも聞いたし、実際に手渡された金額からも容易に察っせられる。しかし、それをそのまま話していいものだろうか。どう考えても、警察は息子を犯人か何かだと思っているとしか思えない。下手な事を話せば、息子を追い込むだけになる。
「すみません。わかりません・・・。」
「本当に?」
女は食い下がる。
「申し訳ありません。でも、あれくらいの年齢になった息子なんて、どこも同じようなものですよ。ほとんど会話なんてありません。だから、昼間どこで何しているかなんて、聞いた事はないですね。」
「そ、そうですか。」
母親は学生の頃、演劇部に入っていた。それも主役を何度か経験したくらいの部の中では中心的存在だった。だから、嘘を嘘だと思わせないような演技を披露して見せた。女の刑事は、まんまとそれに引っかかったわけだ。
「それでは、これで失礼します。朝早くから、申し訳ありませんでした。」
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