すき、好き、もっとスキ。



「修旅ん時」

「……えっ?」

「バスに酔って、そん時のガイドさんに優しく介抱して貰ったから」



そっと小さく聞こえた声に、視線を落とすと。

そこには、バスに乗ってからずっと寝ていた男の子が少しズレた黒フレームの眼鏡を直しながら、あたしを見上げていた。



「そんなところじゃないですか?」



コソッと言われ、あたしは慌てて視線をあげる。



「しゅ、修学旅行の時にバスで体調を崩してしまって。そ、その時のガイドさんが優しく介抱してくれたんですよ」

「大石さんは、そんなガイドさんを目指していらっしゃるんですね」

「あ、はい」



そのまま、皆の話は就職へと移っていった。

この辺りは名門高校の生徒さん。

自分のなりたい職業に出来るだけ早く就く方法とか。

そんな話をしていた。



ホッと一息ついて、あたしの斜め後ろの席に座る男の子を見ると、もう眠っている。



貰った資料の席順には、真山 匡(マヤマ キョウ)と書かれていた。



< 23 / 110 >

この作品をシェア

pagetop