図書室の朱、霧雨の空。
Ouverture
 空が真っ赤に染まっていた。
 綺麗な夕焼け。なのに雨が降っている。いわゆるお天気雨。
 植物に水をやる時に使う霧吹きから出る水のように細いその雨を、「霧雨」というのだと教えてくれたのはアタルだった。
 あの時、あたしたちはどんな会話をしたんだっけ。
 思い出せるのは今と同じ景色の中、アタルに初めて触れた手の温度と、夕陽を背負った彼女の美しさだけだ。
 あの時、何気なく触れたアタルの指があたしよりも細いのにびっくりして、このままあたしが触れていたら壊れてしまうのじゃないかと不安になった。
「冬目さん?」
 思わず手を放したあたしに、アタルは不思議そうな顔をして首を傾けた。
 さらさらの長い髪が動きに合わせて揺れて、夕陽の光でキラキラと輝くその黒髪が、とても美しいと思ったんだ。

 霧雨の降る夕暮れを背にして静かにたたずむ彼女は、あたしよりも美しかった。

 そして、その瞬間。
 あたしの中で何かが生まれた音がした。

 それは、間違えようもない。
 確かに、恋心だった。

 あたしは、同性であるアタルに恋をしたのだ。
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