図書室の朱、霧雨の空。

♪activité de l'homeroom

 アタルを始めて認識したのは一学期の学級活動の中の委員を決める時だった。

 先生が黒板に体育委員や保健委員の立候補者の名前を書いていく。みんなはがやがや騒がしくて、あたしも委員会活動なんて興味なかったから我関せずで隣の席のヒカルと喋ってた。
「よし次ー、図書委員立候補いるかー?」
 先生が黒板をチョークでコツコツ叩きながらあたしたちを振りかえる。
「図書委員なんて暗いよねー」
 後ろの席にいた友達のアキが小さな声で言って、うんうんとあたしとヒカルも頷いた。
 本なんて読まない。字がいっぱい並んでて眼が痛くなるし、教科書だけで充分だもん。だから図書委員なんて論外だ。
「はい」
 がやがやと騒がしい教室の中、大人しい声がひっそりと上がって、そんなに大きな声じゃないはずなのに、あたしは思わず声のした方へ顔を向けた。
 一番最初に、まっすぐ伸ばされた腕が眼に入って、次に長い黒髪、そしてフレームのない眼鏡。顔は前髪が長くてよく見えない。
 ああ、大体の人が第一印象は「暗い」と思うタイプだなと思った。実際、あたしもそう思った。
「うわっ、中原だー」
 イメージぴったしだね。
 ウシシ、と下品な笑いを小さく上げたアキに、そうだねと返す。あたしはその時まであんな子がクラスにいたことさえも忘れていた。
 つまり、彼女はあたしにとってそういう存在だったわけだ。
「男子はいないかー」
 委員は男女一人ずつだから、先生が中原の名前を黒板に書いたあと、もう一度教室を見まわした。
「あ、オレやりまーす」
 手を上げた眼鏡の男子。確か鈴木だっけ。
 入試の成績がトップだったとかで、入学式で新入生代表のあいさつをした奴だった気がする。
 頭いい奴はツンケンしてるイメージがあって苦手だけど、話したことはなくても、アイツが結構明るい奴みたいだってのは印象でわかった。だから余計に図書委員なんてやるんだと意外な気がした。
 まあ、頭いい人みたいだから不思議でもなんでもないのかな。
「じゃあ、中原と鈴木な」
 中原の隣に鈴木の名前を書いて、じゃあ次と他の委員へ話は移る。
 あたしにとって、それが中原 中(なかはら あたる)をちゃんと認識した初めてのことだった。
< 5 / 5 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

佐藤君と鈴木君
佐乃/著

総文字数/2,266

青春・友情4ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop