相合傘



マンションに着いて、エレベータに乗りこむ。
階は3階で、俺はその階で一番端の突き当り。

「はい、どうもありがとう」

そう言って、アキちゃんはびしょ濡れの傘を俺に手渡した。
てか、ちゃんと畳めよっ!!

「あ~、どーも」

嫌味を込めた声で答えると、アキちゃんは一つ笑みを零した後、さっさと家の中に入って行った。

…なんか、いまいち掴みどころのネェ子。

そう思いながら鍵を開けて、室内へ入った。
初夏のこの時期は、梅雨でじめじめして蒸し暑いけど、室内の板間の床はひんやりとして気持ちが良かった。
さて、今日の夕飯は何にしようかな?と冷蔵庫を覗いた時、インターホンが鳴った。
バタンと冷蔵庫を閉め、玄関の扉を開ければ…

アキちゃんの姿。

「はい、これお引越しの御挨拶の粗品!」

本当は今日のお昼頃に渡そうとしたのにいなかったもん。
満面の笑みでそう言って、アキちゃんが俺の両手に置いたのは…

「…嫌がらせか?」
「だって~」
「くれるなら止めろよ」
「何でも1つより2つあった方が良いっていうじゃん。1人より2人、2人より3人ってね」
「……」



…訳が、分かりません。



心の中でツッコミながら、俺はがっくりと肩を落とした。
そして俺は手の上に乗っけられた洗濯用の洗剤を見つめた。
アキちゃんは凄く楽しそうな顔で、笑いを堪えていた。

…せめて、メーカーが違ってくれれば良かったのに。


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