相合傘

強く握られた左手。
スタスタと歩くその足は、早く公園から離れようと、俺を急かした。

「ちょっと、待てよ」
「……」
「ま、待てって!」

言葉を掛けても返ってくる返事は無く、ただ道を突き進む足音が聞こえるだけ。
顔見えないから、どうなのか分からないけど…

何か、怒ってる?

顔を覗き込もうと隣に足を大きく踏み出した時、ピリリとした痛みが左手を走った。

「ぃ…ッ!!」

苦痛の声に驚いた“アキちゃん”は、慌てて俺の手を離した。
じわり、と真っ白な包帯に、暗くても分かる鮮明な赤が滲む。
今、体勢が変わった時に当たってしまったんだな…。

「わ、わりぃ」
「いや、…俺が体勢変えたせいだから」

ゆっくりと顔を見上げれば、少し難しい顔をしている“アキちゃん”。
俺は何だか気まずくなって、俯いた。

「…何で、俺を助けたんだよ」
「…何となく」
「も、もう、俺に会いにきたりしないって言ったくせに」

そう呟けば、“アキちゃん”の手が微動した。

…違う、違うだろ…。
本当はこういう事言いたいいじゃなくて、そうじゃなくて…。
もっと、他に言わなくちゃいけない事あるのに。

「確かに、そういう事言った。でも、オレは…」
「…お、『オレは』…?」

途中で言葉を詰まらせた“アキちゃん”は、眉間に皺を寄せた。
続きは気になって顔を上げると、“アキちゃん”と目が合って、しばらく時が過ぎた。

「…続き、は?」
「……やっぱいい」

こんだけ引っ張って『やっぱいい』かよ!


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