君だけに夢をもう一度
「プロのミュージシャンになるって、どういうことなんだ? 」

感情をむき出したことに、父親も反省したのか、今度は急に優しい口調に変わった。
だが、目つきは厳しいままである。

その言葉から、敦子は、母親が担任から進路指導のことを聞かされて、父親の耳に入った経緯を直感した。

夢を持って、それに向かって突き進むことは、別に悪いことではない。
敦子は、父親に自分の夢を告げようと思った。

「私、プロのミュージシャンになることが夢なの」
敦子が、父親に訴えるように言った。

父親は黙っていた。

「サザンのような音楽をしたいの」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

「では聞くが、プロのミュージシャンになれなかったら、おまえは、どうする気だ? どうやって生きてゆく。金にもならない音楽で生きてゆく自信があるのか? 」

父親は、じっと敦子を見つめながら、子供の敦子を追い込むように尋ねた。

「・・・・・・」

中学生の敦子には、父親の言葉はすごく重い言葉だった。
なにひとつ反発できない。
威圧感が、敦子の体をしめつける。

「そんな甘い夢なんか捨てて、もっと、自分にあった将来設計をしなさい」
と、言って、父親は居間を出て行った。

敦子は、しばらく正座をしたまま、そこから離れられなかった。
悔しい気持ちで、涙が止まらなかった。




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