気まぐれお嬢様にご用心☆
「はいっ!それじゃ十分休憩ね」

確かにスパルタだなぁ……こりゃ。勉強している傍らでハリセン持って立たれりゃ誰だってそう思うわな。

「翼……あのさ、お前『男嫌い』なんだって?」

「どこでそんなことを?」

「楓からだよ。お前の男嫌いを直してあげてほしいって頼まれた」

「そう……楓が。でも千晶も私に気をつかって今も女装してくれているんでしょ」

「まぁ……そうだけど。そろそろ元の姿に戻ってもいいか」

「えっ?ちょっちょっと待ってよ~まだ心の準備ってものが」

「大丈夫だよ。強くなれ翼!!」
大丈夫と言ったところで大した根拠はないのだが自信だけはあった。そう言って千晶はそっとカツラを取る。

「……」
ぐっと目に力を入れて一生懸命つむろうとする翼。

「ほら……ゆっくりと目を開けて」

「でも……恐いよ。私もしかしたらまた千晶にまた冷たい態度とっちゃうかも」

「俺はそんなこと気にしてないから」

「……千……晶」

ほら……ゆっくり目をあけて。
怖がらないで。
自分を信じるんだ。

彼女はゆっくりと目を開けると千晶を見た。

「お前の男嫌いはその過去のトラウマと自分自身を閉ざしたところにあると思うんだ」

「……私」

「けれど今のお前は俺に勉強を教えようとしてくれた、それに少しだけかもしれないけど俺に心を開いてくれた」

「……なんともない。千晶を見ても前みたいにイライラしない」

「それは自分では気付いてないかもしれないけど、翼が成長したって『証』なんだよ。俺の力でもないお前自身の力でな」

「ありがとう、千晶」
俺はここにきて初めて彼女の『笑顔』に触れる。その笑顔は本当に眩しくてキラキラと輝いていた。


そして……追試も翼のおかげで無事にクリアすることができた。

俺にとっての『翼』の存在。今はまだは分からない……。
しかし、ほんのちょっとだけ『愛』や『恋』の意味が分かった、そんな気がしている。
< 12 / 83 >

この作品をシェア

pagetop