気まぐれお嬢様にご用心☆
これは──見る人によってはある意味、極限の状態なのではなかろうか……?

右には過去に振った薫と、左には同居している翼、この二人に挟まれている俺が居る。これも『両手に花』と言えるのだろうか……?
ふとそんなことを思ってみる。


「ところで、翼さんと千晶って付き合っているの?」

「な……なっ、何だ?……突然」

「千晶とはただの『同居人』。それだけよ」

──ただの同居人……か。

「お前なぁ〜さっきから翼のこと意識してるみたいだけど……変に勘繰るのはやめろ」

「そっか、そっか〜思い違いならそれでいいんだけど。……私まだ千晶のこと諦めてないよ」

「……薫」

「翼さんに『宣戦布告』!!じゃあ、私はこっちだから……また明日ね!」

「……」

薫はそう言い放つと手を振って走っていく。
彼女の軽やかな足取りとは裏腹に、俺の心の中は複雑な思いが混同してとても重くなっていた。


「ごめん」

「なんで謝るの?」

「あいつが変なこと口走っていたから……昔から勘だけは働くって言うかさ〜」

「……薫さんと千晶は昔、付き合っていたの?」

「付き合ってない。告白はされたけど俺が断ったんだ」

「……」

「薫とは『幼馴染み』だから。それだけだから」

「なんでそんなこと私に言うの?」

「それは……」

「薫さんも誤解してるみたいだからもう一度はっきり言っておくわ。私とあなたは『同居人』。それ以上でも以下でもないの」
いつもの翼の表情とは違う。俺はそれを咄嗟に察知した。

「怒っているのか?」

「怒ってなんか……ない。ただ……」

「?」

「千晶のその流されやすくて、はっきりしないとこが嫌いなだけ」

「……翼」

「ごめん、忘れて」
翼は俺を残したまま家路を去って行く。
彼女の背中を見ているだけで追いかけることはできなかった。
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