気まぐれお嬢様にご用心☆
「お~い!!薫~っ!」

「千晶!」
そう言いかけて薫の振り上げた手が止まった。

それは俺の隣に楓が……いや、彼女からすれば『翼』が居たから。


「あのさ、薫……」

「何故、あなたがここに居るわけ?翼さん」

「はっきりさせようと思って。私と千晶が『恋人同士』だってことを」
そう言って俺の左腕をぐいっと引っ張ると自分の腕を絡ませてきた。

相変わらず強引だよなぁ~。少しはその強引さを見習いたいとも思った。

「恋人……?だってこの間はただの『同居人』って」

「それは初対面の人に本当のことを言うのが恥ずかしくて嘘ついただけ。ねっ!」

「ああ……」
俺に同意を求める彼女の視線が、やけに鋭く感じる。

早く修羅場とも言えるこの場所から解放されたい……。

「ふ~ん……だったら『キス』して見せてよ。今すぐここで、恋人同士なら躊躇いもなくできるでしょ」
彼女はどうせ演技なんでしょとでも言うように斜に構えて見せた。

キっキスぅ~っ!

マジかよ。
薫のヤツ……全然信じてないってことか。
もうこの作戦は失敗だ……。早いとこ白状して次の手を考えようぜ、楓……?

「いいわよ、してやろうじゃないの!キスなんて簡単なんだからっ!」


……楓。


彼女は俺の方を向き、怯んだ隙を狙って口唇を重ねてきた。
それは──とても柔らかい感触……。


「これで信じてもらえたかしら?」

「嘘……」

「嘘じゃないわ。だからもう彼のことは諦めて!」

「……千晶」

「ごめん、薫」

これでいいんだ。これで……。薫には気の毒だと思いつつも俺は心を鬼にした。ここで甘い顔をしたらまた振り出しに戻ってしまう。
もう過去のことで振り回されたくない。

終わりにしよう。

お前と俺は『幼馴染み』なんだから。
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