気まぐれお嬢様にご用心☆
扉を開けたら――。
この病室の扉の向こうには、
いつもの元気な親父とお袋が居て、
『おかえり』って言ってくれて……。


「……千……晶?」

ドアノブに手をかけたものの俺は開けることができなかった。
扉を開けてしまったら、この真実を全て受け止めなければならないと思ったから。
それが……恐かった。
恐くて仕方なかった……。

「薫――こんな時どうしたらいいんだっけ?」

「っうっうっ……」

薫が泣いている。

みんなが泣いている。

そっか……、

簡単だ。

『泣けばいいんだ』……。


……これが『涙』――。
俺の『涙』なのか……。


なんで、なんで死んじゃったんだよ!!
帰るって約束したじゃねぇか!

絶対帰ってくるって……。


バカヤロウ――――っ!!



その夜、俺は薫の家族に送られて家に戻った。
多分、日付は変わっていた気がする。

そして――、

お袋から貰ったバレンタインチョコレートをずっと握りしめていた。
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