【短】君の瞳に…『ホタルの住む森 番外編』
1.家出
「暁。陽歌知らないか?」
自宅と隣接した診療所で診療を終え、リビングへと移動した晃はテレビの前を陣取ってゲームをしている息子の暁に声をかけた。
「あぁ? 父さん知らないの?陽歌母さん出て行ったよ」
「……え?でっ…出て行ったって…」
「こんな大きな息子がいきなり出来て、新婚生活もそこそこに父さんが仕事ばっかりしているから嫌になったんじゃないか?
結婚1週間で出ていかれちゃ可哀相だよな、父さんも。結婚式も慌しかったし、せめてゆっくりと新婚旅行ぐらい計画してやるべきだったんじゃねぇ?」
テレビから視線をそらさずにシレッとそう言った暁を呆然と見詰める晃は動揺を隠しきれない。
そう言えば昨日、何処かへ出かけたと思ったら血相を変えて帰ってきて、あちこち電話をかけまくっていた陽歌の姿を思い出す。
どうしたのかと聞いても曖昧に誤魔化すばかりで、部屋を追い出されてしまった。
出逢ってすぐに結婚を決意し、そのまま実行してしまった晃は少々不安になってきた。
……まさか、家出?
余りに急いで結婚したからもしかして今になって後悔しているとか?
そう言えば、茜のときも結婚を急ぎすぎて、大喧嘩した事があったっけ。
今更ながらに成長していない自分に呆れると同時に落ち込み始める。
……家出…ってことないよな?