オリジナル・レイズ

そんな、蒸し暑いある晩のこと。

校舎の壁に沿って、中庭にも紫陽花がいくつも植えられていることに気がついた。

もちろん、すでに花はなく葉だけの紫陽花。


吸い取られるように視線を奪われ、私は紫陽花に近づき、しゃがみこんで眺めていた。




「ツバサー、何してるんだ?」


少し離れたところから、車椅子の全くんが私を呼ぶ。

私は全くんのもとへ歩きながら言った。


「ねぇ、この学校にも紫陽花があったんだね」


「あじさい??なんで今、紫陽花なんだよ。今の季節はアレだろ?」


全くんは軽く笑うと、紫陽花の手前の花壇に視線を投げた。

彼に従って、視線の先を私も追う。




花壇に咲いていたのは、向日葵。

ただ、咲いていたという表現は合わないが…



「みーんな、下向いちゃってるけどな」



向日葵。

そうだ、この季節は向日葵なんだよね。

どうして私、花も咲いていない紫陽花なんか見ていたんだろう。


< 144 / 220 >

この作品をシェア

pagetop