冬うらら2

 カイトの体温が、直接ではないけれども、彼女のところまでふわりと飛んでくる距離でもあった。

 このくらいなら。

 さっきまでと比較すると、信じられないくらい安心できた自分に気づいて、また恥ずかしくなる。

 試しに、ちょっとカイトに触れてみようと布団の中で腕を動かす。

 彼の身体に当たるのは、すぐだった。

 その瞬間。

 きゃー!!!

 声にならない悲鳴をあげた。

 そりゃあもう、驚く事件があったのである。

 起きていないハズのカイトが、まるで食虫植物のような反応で、とにかく手近なものを抱きかかえようとして―― またメイは、そこにおさまってしまったのだ。

 心臓が、飛び出すほど驚いたのだった。

 ハァハァと驚きの吐息を押さえながら、彼女はカイトの胸の中で固まっていた。

 やっぱり寝息が聞こえてくるので、まだ彼は眠り続けているのだと分かった。

 ちょっと触っただけなのに。

 寝返りでも、寝言でもなく、いきなりガバッだったのだ。

 何か抱えていないと、落ち着かないのだろうか。

 すっかり目が冴えてしまったメイは、ついそんな風に考えてしまった。

 思えば、いままで本当に彼には抱きしめられ続けた。

 あんな短い期間なのに、何かあるとぎゅっと抱きしめてくれるし、何もなくてもそうしてくれる。

 それが、言葉少ないカイトの感情表現なのだろう。

 でも、こんな眠ってまでぎゅーなんて。

 カイト自身に、抱きグセがあるような気がしてしまう。

 想像したら、クスッと笑ってしまった。

 子供のカイトが、クマちゃんのぬいぐるみを抱きかかえて眠っているところだ。

 きっと本人に知られたら、思い切り怒鳴られるに違いない。

 現実の彼が、そういうメルヘンで可愛い世界を、笑顔で受け入れられるとは思えないからだ。

 でも。

 こんな風に抱えられるなら―― ボロボロになっても、クマちゃんでいたかった。

 片耳になっても、つぎはぎになっても。


 カイトのためだけの、安らぎの魔法使いになりたかった。
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