冬うらら2

 目をそらしたのは、メイの方だった。

 どうしよう。

 そんな表情だった。

 それで分かった。

 彼女は、ちゃんとこれが『あのカップ』だということを、分かって持ち出していたのだ。

 何故?

 他の食器は、これだけ不揃いだ。

 おそらく、必要最小限のものだけ、この家で揃えたのだろう。

 なのに。

 メイは、このカップだけは、家から持ち出していたのだ。

 何……で?

 カイトは、ワケを考えようとした。

 彼の回路は、女性の考えについていけるような仕組みではなかった。

 けれども、メイのことだけは理解したかったのだ。

 一緒にお茶をしたカップ。

 カイトと。

 そんなに長い間のことではない。

 夕食の後。

 別に何を話すワケでもなかった。

 彼女はお茶を飲み終わると出て行って、『おやすみなさい』と言った。

 事実ばかりが、カイトの頭の中でグルグルと巡る。

 どこかに、真実が落ちているはずなのに、彼があまりに早くページをめくるものだから、端っこに小さく書いてある文字を片っ端から見落としていくのだ。

「忘れたく…なかったの」

 めくり続けていたページが、自分から呼びかける。

 小さな声で。

 カイトは慌てて手を止めて、そのページの中の女性を見る。

「あの時間のことを…ううん、カイトのことを忘れたくなかったの……だから…勝手に…ごめんなさい」

 思い出に。

 ページの中に住む女性は、頬を微かに赤くして。

 唇を震えさせて。
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