冬うらら2

 確か、夕食のレストランに入ろうとしたところでケイタイが鳴った。

 ソウマからなのは、着信画面ですぐ分かった。

 しかし、これからの時間をソウマにまた邪魔されるのも腹が立つので、思い切り無視して電源を切ったのだ。

 そして、ケイタイは未だに電源が切れたまま。

 すっかり忘れていた。

『もしかして……昨夜は、まずいタイミングで電話したのか? それだったら、悪かったな』

 ガキガキッ。

 馬で言うなら、カイトはいましっかりとハミを噛みしめてしまった。

 どうしてこう、この男は下世話なことしか考えられないのか。

 受話器を睨み付けると、まるでそこに笑顔のソウマがいるようにさえ思えて、憎さ倍増だった。

 発達した右脳のおかげである。

『おっと、短気は起こすなよ…大事な話で電話をしたんだからな』

 慌てて釘を刺してくるのは、彼が本当にいきなり電話を切る男だと知っているからだろう。

 そして大事な話と言えば、何もかもがカイト相手にうまくいくと思っているのだ。

 毎度、その大事な話がハズレであれば、カイトだってもう電話をたたっ切っているだろう。

 しかし、本当に大事な話もする男なので、ぐぐっとこらえた。

 ソウマの存在は、確かに腹が立つのだが―― 悔しいけれども、彼女をもっと幸せにするための道があることを示唆する存在でもあるのだ。

「早く言え…忙しいんだ」

 それは、きっと相手にも伝わっているだろう。

 開発室はザワザワと騒がしく、緊張感あふれる気配は、電話線というフィルターを間に通しても、決して消えてしまわないだろう。

『ちょっと気になることがあってな…おまえ…』

 電話の声も神妙になる。

 コンピュータの電源を入れながらも、その声に引き込まれる。

『おまえ…ちゃんと、彼女を両親に紹介したのか?』

 ピコッ。

 コンピュータの電源が入った瞬間に、新たな衝撃が訪れた。
< 62 / 633 >

この作品をシェア

pagetop