冬うらら2

 カイトが見ていない時に、後から大慌てで拾って片づけるハメになったメイは、一つ拾い上げるごとに、そのまま恥ずかしさに倒れてしまいそうだった。

 カァ。

 払っても消えない記憶は、顔の色に出てしまったらしく、ハルコに笑われてしまった。

「さあ、冬服は脱いで預けていきなさい。また、帰りに迎えにくるから」

 向こうは夏よ。

 言われて、メイはコートを脱いだ。

 もう一枚も、と言われたのでジャケットも預けた。

 空港内は、それでも気にならないほど暖かだったが、彼女は不安を手放せない。

 冬から夏の世界に、いきなりジャンプしたことがなかったせいだ。

 これで、明日や明後日には水着姿になっているなんて―― 頭では分かっていても、どうしても体験するまでは信じられなかった。

 この国はまだ、毎日こんなに寒いのに。

 ブラウスとスカートという出で立ちで、彼女は落ち着かなくカイトの帰りを待った。

「お、帰ってきたな」

 ソウマの言葉に、彼女は声の方を向いた。

 今度は走ってくる様子はなく、大股でざくざくと戻ってくるコート姿。

 そんなに背は高くなくても、独特のオーラですぐに彼が分かった。

 どれだけの人がいても、その中からすぐにカイトを見つけられるようになりたかった。

 彼だけは、この世界にいるどんな人とも違う、自分のたった1人の夫なのだから。

 たとえ婚姻届は、永遠のものでなかったとしても。

 いや、そうだからこそ大事に守っていけば、きっとこんな生活を続けられると信じたかった。

 この人と。

 カイトが、目の前まで帰ってくる。

 彼女の視線に気づいたのか、ふっと足を止めてじっと視線を返してくれるが、少し怪訝そうだ。
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