レンタルビデオの女
第一話
偶然か、それとも必然か・・・
自分では無意識のうちに通り過ぎた、人や物との小さな出会いがその人の人生を大き
く左右することがある。

これはある一本のレンタルビデオに運命を大きく動かされる一人の青年の物
語・・・・・


             -2007年 初冬-

あたりに生える木の葉っぱたちが冬の訪れに剥ぎ取られ、丸裸の木を乾燥した北風が
なびく冬のある日、右手に返却期限ギリギリのレンタルビデオを持ち、男は近所にあ
る行き着けのレンタルビデオ屋へと足を急がせていた。


「貸借 達也(かしかり たつや)」。将来、映画監督になることを夢見ている19
才。
子供の頃から映画好きなのと、映画の勉強も兼ねて、達也は週に2本映画を借りるの
が習慣だった。

しかし、彼が毎週必ずレンタルビデオ屋に足を運ぶのにはもう1つ理由があった。

「幸田さん(こうだ)」。達也行きつけのレンタルビデオ屋で1年ほど前からアルバ
イトをする、長い黒髪と、深みのある真っ黒で大きな瞳が印象的な美しい女性。冷え
性なのか真夏でも長袖の制服を着ていて、少し不思議な印象もある。

達也は彼女の恋をしていた・・・。

「今日こそは絶対に幸田さんに話しかけるぞ・・・
 いつもバイト大変ですね。髪きった??今日は何時までで
 すか??肩にゴミついてますよ!!
 あぁ・・・どれが一番自然で気持ち悪いと思われないかな」


達也は一年前、いつも通りレンタルビデオを借りに行った所、
アルバイトを始めた幸田さんに一目惚れしたのだが、この1年間、彼女に一言も話し
かけられず、彼女の下の名前すら知らなかった。

達也は超のつくオクテで、これまで女の子と付き合うどころかろくに会話をすること
も出来なかったブッちぎりの童貞だ。

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