悪魔のいる教室
「よかったら、渡しとこうか?」

「え……いいの?」

「うん、いいよ」


悪魔の居場所も知らないくせに、つい口走ってしまった。


今日は悪魔と帰る日じゃないから、もしかしたらもう帰っちゃってる可能性もありえないでもない。

教室に置き去りの鞄なんて、悪魔の場合はなんの保証にもならない。


どうしよう、早く探さねば……。


「熊谷さん、ありがとう」


ホッと表情を綻ばせる栗原くんを見ると、体の中を渦巻き始めてた後悔はどっかへ消えていった。


ふむ……悪魔と関わらずに済んで安心してるところから、どうやらマゾではないらしい。

それなのに、ツキンと胸が痛むのはどうしてだろう。


この気持ちは……あれだ、由美に『お弁当食べる場所を変えよう』って言われた時に感じたそれと似てる。

苦しくて、悲しい痛み。


「あいつがいねぇと、教室の空気がスカッとするよなぁ〜」


突然耳に飛び込んできた台詞に、追い討ちをかけられたかのように心臓がドクンと波打った。

ゲラゲラと、複数の下品な笑い声が教室に響き渡る。
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