悪魔のいる教室
「ここの問題、教えて?」


言い終わった後に、怖くなった。


突然こんな事言われて、きっと迷惑だ。

クラスメートの視線が体のあちこちに突き刺さる。


それでも。
耐えられなかった。


それに、私は知ってる。


「……教科書貸せ」


悪魔は、頼ってくる者を無闇に突き離したりしない事を。


「あらら。俺より佐久間の方が頼りになるかぁ」


そう言って独特の豪快な笑い声をあげるタケティーを、クラスメートが呼んだ。

大きな気配が離れていく。


私の教科書に暗号を書き込む悪魔。

いつもより優しい声で唱えられる呪文を聞きながら、気分が少しだけ穏やかになっていくのを感じた。


「──おい、聞いてんのか」

「えっ? あ、うん。なんか、難しいね」


別によそ見してたわけじゃないけど、ボーッとしてた事に気づいた。

咄嗟に口の端をあげ、怒られたくなくて嘘をついてしまった。


悪魔は溜息をつくでもなく、怒るでもなく。

またあの、心を見透かすような目で私を見てくる。
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