生徒会長様の、モテる法則
引き寄せられるように耳を貸すと、口元を手で隠し小さく口を開く。
仕草はやたら子供くさいが、何倍も静かな声が鼓膜を震わせた。
「親衛隊の中にはリンを気に入らない人だっているんだから」
突然の真面目モードに戸惑う私をよそに、ハルは未だ一つだけ空席の机へ視線を投げた。
「今日だって、とうま女の子たちに捕まって登校遅れてるんだと思うんだよねー」
確かに始業時間まで五分をきっており、来ていないのは彼だけだ。
いつもならこの時間には登校しているはずだが、やはり彼の言った通り殺気立った女子に捕まってるのだろうか。
すっかり忘れていたが、バレンタインという行事は何も恋人達の祭典というわけでもない。
女の子が好きな人に告白出来る日であり、想いが成就する確率が大いに跳ね上がる日だ。
つまりモテる男と称されたあの生徒会長様は、最早チョコレート自動回収機――いやチョコレート吸引機と化す可能性だって否めない。
「あ、やっときた」
ハルの声と扉を開ける音はほぼ同時だった。
思ったより涼しげな表情で登場した要冬真は、何食わぬ顔で席に向かってこちらに歩いてくる。
何を思ったかハルはわざわざ立ち上がりヤツに近付いて、傾げるようにして見上げた。
「去年よりはやいねー!全部車に置いてきたのー?」
「毎年分かりきった事だろ」
「ふーん、そーかなぁー」
私の想像は両手に大きな紙袋を抱えて四苦八苦しながら歩く姿だったが、要冬真のスタイルはあくまでいつもと変わらず。
つうか朝のうちから両手に抱えきれないほど貰ったんかい。
「…」
ムカつく。
ほんの一瞬だけ巡らせた言葉に我に返って、蹴散らすように頭を振り顔をあげると、ハルから視線を外したヤツと偶然にも目が合い、私は思わず顔を背ける。
――…あわわ
自分が何も用意出来なかった毛ほどの罪悪感と、腹の中で這った細い嫉妬を見透かされたくなかった。
手元に握られた袋が主張するように音を立てたが、知らないふりをして。