悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
呆気にとられて二の句がつけず佇んでいる私に、黒づくめの男はゆっくりと視線を上げた。
ぞくりとするほど、冷たい光を放っている。

「おはよう、キヨミ」

艶やかなテノールの声からは、いかなる感情も読み取れない。
強いて言うならば、皇帝を髣髴とさせるような絶対的な支配者の声音。

「……お、はようございます」

「あら、忘れちゃったの?
 潤くんのお友達じゃない」

ママは気軽に声を掛けてくる。
けど。

……知らないわよっ。

こんな、威圧感たっぷりの男なんて。
いくらなんでも、一度見たことがあるなら、忘れることなんてなさそうだもの。

食事を終えたその男は、すくっと立ち上がる。
うっとりするような所作で、食器をまとめ、シンクへと運ぶ。

鷹揚な態度と相反する丁寧ぶりに、私はただただ視線を奪われるほか無い。

「あら、置いておいてっていつも言ってるのに」

気軽にそいつに声を掛ける母親が、偉大にすら見えてくる。

私に分かったことは、どうやら、この人は「しょっちゅう」ここで食事をしているという設定になっているみたい、ということだけだった。
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