悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
「あの。
百合亜って決めるのもいいんだけど。
早乙女って人と結婚できるかどうかも定かじゃないし。
女の子が生まれるかどうかも分からないし」

結婚できるかどうかも、分からないじゃないっていう言葉は、そっと胸にしまっておく。

なにせ、志保さんは、最近ちらほらテレビでも見かけるようになった、舞台俳優の氷川亮総さんの追っかけとして有名だ。
でも、私が知る限り、氷川さんの本名は<早乙女>ではないはず。

志保さんは私の言葉に余裕の笑みを返す。

「あらぁ。
初めての子供は女の子って決まってるのよ。
それに、苗字なんて簡単に変えれるじゃない。
特に、養子になる人が成年だったら家裁の許可も要らないし」

それから、声を潜めて付け加えた。

「それに、私。
全国の養子縁組してくれそうな早乙女さんリスト持ってるんだ」

……はい~?

その熱意を別のものに活かそうという気はないのかしら、全く。

「じゃあ、その。
百合亜ちゃんが生まれたら、是非、逢わせてね」

他になんていえばいいのか想像もつかなくて、私は仕方がなく下手に出てみる。

あらぁ、と。
志保さんはうっとりした笑みをその顔に浮かべた。

「ありがとう。私たち、きっとずっと親友でいられるわね」

「そ、そうね」

曖昧な笑顔を浮かべると、私は荷物を纏めて立ち上がった。

「ごめんね、志保さん。
私、そろそろピアノの練習の時間なの」

「そう。頑張って」

優雅な笑みで見送られた。
私は逃げるように走りながらも、気を引き締める。

なにせ、もうすぐピアノの発表会なのだ。





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