霧の向こう側

「これをあげる」
 青年は、自分の首にかけていた物を少女の首にかけた。淡く乳白色に光るそれはとても不思議な形をしている。『これなぁに?』とでも言わないばかりに見上げると、青年は笑顔で答えた。
「ラビリンス。時封じの輪に、時巡りの車輪だよ。俺達の様な存在に、唯一許された娯楽の産物。
 俺達の心だけが作れる魔法のペンダント」
 歌う様に言う。
「自分の大切な時間を閉じ込める事が出来るんだよ。凄いでしょ」
「…………」
少女は、青年の笑顔が少女にペンダントを渡した時点で妙に歪んで見えた様な気がした。
少女は、瞳を数度瞬き、確かめる様にしげしげと青年を見つめる。しかし、目の前にいるのはいつも優しい“お兄さん”だ。
 鍵っ子だった少女の遊び相手にいつもなってくれるいつもと変わりないお兄さんのはずなのだ。
少女は、さきほど感じた“違和感”は気のせいじゃないかと思う事にした。
 怖いと思った気持ちも。
 少女は気を取り直して笑顔を青年に向けた。
 有り難うの意味をこめて。
「……このまま、かなちゃんを帰さなかったら、どうする?」
 
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