霧の向こう側
三話・約束と時の拘束
加奈子の心の中でカチリという音がした。
 瞳は目の前の少女と青年を見つめ、加奈子のときめきにも似た、甘く、わずかに苦しいその小さな鼓動が、確実に全身に広がっていくのを感じる。
 しかし、加奈子にはそれを止める術を持っていなかった。加奈子は心の中で一歩、後ずさりをする。
 心は震えていた。
 怯えているのだ。
 その間にも、青年と少女の会話は時計が時を刻むだけ進んでいく。
 加奈子は、頼り無くブルブル震える指で、首にかけている物をたぐりよせた。
 いつも持っている事が習慣になっていた物だった。
 友人に問いただされた時、何処で買ったのか不明で、返答に困った代物である。
首にかかっているそれは、飾りの部分がリボンの端と端をひねりを一つ入れて繋げた様な変わった形に、馬車の車輪に似た形の物が一つ組み込まれたデザインになっている。
 その大きさはマッチ箱の大きさより一回り小さかった。

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