泡姫物語
またしても私の心を読まれた。

「賛成!愛子のプリン、久しぶりだな」

「ふたりとも必ず2個ずつ食べてたよね。じゃあ私はプリン持参するから友紀は私の好きなカルボナーラ作ってほしいな」

私は愛子と違ってそんなに料理が上手いわけではなく、無難にレシピ通りのものが出来上がるという感じなのだが、なぜかカルボナーラだけは評判がいい。

カルボナーラを作るきっかけになったのが高校1年生の愛子の誕生日。
私の実家に愛子と修を招待して手作り料理を振舞おうと計画し、メニューは最初から愛子の好きなカルボナーラと決めていた。

レストランのように美味しく作りたくて、よく行く近所のイタリアンレストランのシェフをしている祐輔さんにレシピを教わりに行った。

祐輔さんはお兄ちゃんの同級生で、よく家に遊びに来ていた。
すらっと背が高く、お父さんがイタリア人でお母さんが日本人のハーフなので、染めなくてもブラウンの綺麗な髪とグレーがかった瞳が印象的なひと。

日本に生まれ、日本人として育ちながらもたまにイタリアのお父さんの実家に遊びに行くとおばあちゃんが作ってふるまってくれるイタリア料理の味は温かく、イタリアとのつながりを仕事にしたいとイタリアンのシェフを目指し、試作だと言ってピッツァやパスタを持って来ては私とお兄ちゃんが一気にたいらげた。

祐輔さんに事情を話すとお安い御用だとすんなり聞き入れてくれた。
私のために材料を用意して解説をしながら作って見せてくれる動作を出来るだけ脳裏に焼きつけ、材料や手順、ワンポイントなどをメモして、完成した祐輔さんのカルボナーラの味を忘れないようにいつも以上に味わいながら食べた。

その成果あって愛子に作ったカルボナーラは大好評で、祐輔さんほどの味は出せなかったが私の唯一の得意料理になった。
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